日経産業新聞
プロの目 商品評価
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アルカリイオン整水器
デザイン、若い女性意識■価格と機能の理解必要
 

 世界一安全と言われた日本の水道水だが、最近は多くの人が不安を抱えている。トリハロメタンや塩素の危険性が指摘されてから、20-30歳代女性を中心に「水道水は怖くて飲めない」「すべてミネラルウオーター。できればお風呂も浄水して入りたい」との声すら聞く。
 そんな「安心で健康に良いもの」に敏感な時代を代弁するかのように、浄水器・アルカリイオン整水器の普及が目覚ましい。浄水器協会の2003年度調査では、浄水器の普及率は東京の48.4%、大阪51.0%など都市部で高水準、全国平均でも30%を越えているという。
 アルカリイオン整水器の普及率は8%程度とまだ低いが、松下電器産業が2年前に業界初の斬新なデザインの「Will A-PURE」に続き、今年2月1日にも超小型の「Will A-CUBE」を発売するなど、注目度は確実に高まっている。
 アルカリイオン整水器は浄水器の高機能版ともいえる。水道水から不純物を取り除くだけでなく、浄水した水をさらに電気分解し、「アルカリイオン水」と「酸性水」を生成。アルカリイオン水は飲用すれば胃腸の働きを高め、酸性水は肌を引き締める美容の効果があり、医療用具としても承認されている。
 これまでアルカリイオン整水器の購入者は「値段やデザインよりも健康面での機能を重視する、子供がいる30-40歳代の主婦が中心」(ビックカメラ池袋西口店)だった。価格も4万-10万円と高いことや、蛇口横に備え付けられる本体の大きさから、単身者など若い世代には浸透しにくかった。
 松下電器の「Will A-CUBE」は「もっと多くの人にアルカリイオン整水器の良さを知って欲しい」(商品企画担当の古賀学氏)との狙いで開発。従来の6割程度(165ミリ×175ミリ×86ミリ)と大幅な小型化を実現した。単身者や共働きの若い夫婦をターゲットに据え、実用性と使い勝手に重点をおいて余計な機能を省くことで低価格(店頭価格3万5000円)を実現した。
 機能、デザインの両面でグループインタビューなどで消費者の声を徹底的に拾い、デザインと機能、小型化を図った。その代表例がカートリッジ。「1つのカートリッジを長く使うのは不潔な感じで不安。安いカートリッジをこまめに替えた方が清潔」という意見をヒントに、小型カートリッジの採用を決めた。
 流行の対面式キッチンを意識して背面もスッキリと見せるようにしたり、角張った本体と曲線を強調した排水口の形状を融合させた。2本必要だったチューブを1本にして、左右どちらでも使用可能な排水スタンドも取り入れた。水質や水流に合わせて光るイルミネーションランプや、生成した酸性水を引き締め用化粧水として使うためのミニスプレーボトルをセットでつけるなど、女性客への細かな配慮も加えている。
 「ターゲットが狭いとされる商品分野だからこそ、市場のすそ野を拡げる挑戦が必要」と古賀氏。販売目標は2年間で5万台。
 アルカリイオン整水器は10年前に比べて機能が向上する一方で価格は約5分の1になっているが市場は確立されたとは言い難い。消費者の心理につけこんだ悪徳商法も少なくなく、水道水への不安をあおり立てて言葉巧みに販売された高額な浄水器に関する苦情は国民生活センターでもワースト上位に入るという。
 浄水器からアルカリイオン整水器へシフトする家庭が増えるなか、消費者も機能と価格の両面で知識を持つことが求められている。メーカーも個人のライフスタイルと目的に合わせて選択できる商品を提供することが、市場拡大には必要だろう。


(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2004.2.17日経産業新聞より)

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シマヤのダイエットスープ
普段の食事で手軽に■味と低カロリーを両立
 

 様々な分野で老舗ブランドの復権とでも言うべき現象が起きている。伝統や従来の顧客層に固執せず、それらをテコに消費者のし好の波頭をとらえ、古くて新しい需要を創造する動きである。「だしの素」を発売して40年になるシマヤ(山口県周南市)もそんな企業の1つだ。
 昨年10月、シマヤは、カネボウが開発したダイエット素材である「ラズベリーケトン」を配合したダイエットスープを発売した。コーン、オニオンコンソメ、わかめ、ミソなどの5品に続き3月1日にはミルクとポテト、トマトも追加投入した。
 だしの素のパイオニアであるシマヤにとってダイエット食品への参入は、収益の大半をだしに依存する経営の殻を自ら破る冒険だった。そして新商品の芽はお客様サービス室に日々入ってくる要望やホームページ上の書き込みにあった。
 「安心できるダイエット食品を探しているのですが」「“だしの素”でやせられませんか」。だしの素の製造元に寄せられる消費者の声は「食品にもっとこんな機能があればいいのに、という安全と健康、付加機能への期待」(同社商品開発チームの首藤信一リーダー)と気づいた。
 シマヤは2000年、化学調味料や着色科・保存料無添加で天然原科100%のコンソメを発売した。しかし伸び盛りのインスタントスープ市場での競合相手は大企業ばかり。真正面からの勝負に苦戦していたところ、ラズベリーケトンという新しいダイエット素材の情報をカネボウから得た。
 高くて、味はいまひとつ――。ダイエット商品や機能性食品の多くに対して消費者がこんな印象を抱いているなか、味と低カロリーの両立を追求。ご飯を食べながら体にいい素材を摂取できるダイエットというコンセプトのもと、20~30歳代の働く女性をターゲットにスープ開発を進めた。
 同社では初の女性社員主導のブロジェクトが組まれた。例えばダイエット素材であり香り成分のラズベリーケトン。食事時に飲むスープだけに、ラズベリーの風味を出すか隠すかについても悩んだが、女牲に受けが良い香りであることから残した。女性の意見として多くあがる「もっと野菜を」「お通じにいいから食物繊維を」などをコンセプトに反映させた。
 ラズベリーケトンというダイエット効果について科学的に根拠のある素材を使っている点も老舗のこだわりだ。同物質はカネボウが02年2月に発表、たまった脂肪を速やかに分解する脂肪分解促進作用・分解された脂肪を消費する脂肪燃焼促進作用、余分な脂肪の体内への取り込みを防ぐ脂肪吸収抑制作用の3つの機能を持つ。
 カネボウも同素材を使い02年5月にそれを配合したダイエット&ボディーケアブランド「ヴィタロッソ」を発売し、「総合ダイエットブランド」として初年度140億円を売っている。シマヤは新素材の力を借りて付加価値を高められた。
 働く女性の増加や食の多様化とともに家庭用スープもこの1~2年で多種多様な商品が一気に増えた。家庭用洋風スープ市場だけでもこの5年間右肩上がりが続き、03年の市場規模は 700億円超、うちインスタントスープはカップ容器入りのスナックスープのヒットなどで260億円を超えるともいわれる。
 「だしオンリー」からの脱却という戦略ではあるが、だしやうまみの深究、粉末かりゅうの製造技術、これらを有する老舗ならではの長年の技を生かした商品開発だ。発売後半年の売り上げは予定の1億円に届かなかったが、ドラッグストアにも販路も広げている。
 シマヤにとって「安心、安全は当たり前」だという。本物志向が進む中、機能性食品でもおいしさを追求することは課題であり、ロコミで固定ファンが広がることを期待している。


(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2004.3.16日経産業新聞より)

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ネイルサロン
老若男女問わずサービス■健康で美しいつめにケア
 

 手足のつめを「ネイルアート」でおしゃれする女性を多く見かけるようになった。髪や肌と同じように身だしなみ感覚でマニキュアをするだけでなく、花や絵柄、デザインを施す人も急増している。
 ネイルアートは若い女性だけのものではない。10歳代から80歳代まで、男性でも身だしなみのためやスポーツ運手など、つめの健康のために手入れする人もいる。
 ただ内容は千差万別。コンビニやドラッグストアでつめ用シールやラインストーンを買って安上がりで楽しむものから、1本2000円以上する人気のスカルプチュア(アクリル樹脂で人エ的につめを長くするもの)をサロンでつけてもらうもの、豪華な3次元アートを施すものもある。素材や手業の技術的な進化で世界が広がっている。
 値段にも幅があり、後発参入したサロンなどは1000円一3000円前後の低料金を売り物にしているところも多い。しかし美容業界では「10分1000円を切ると手抜きは仕方ない」との常識もあり、出来栄えにはおのずと差が生じる。技術を追求するサロンなどで両手を施術すればメニューにより5000円ー3万円するが、品質に加えリラクゼーションや満足度を求める顧客も多い。
 最近国内外で注目を浴びている店を紹介しよう。東京・銀座のタアコバ。創業26年目を迎えた老舗ネイルサロンのロングルア一ジュ(東京・広尾)が2002年9月にサザビーと共同でオープンしたサロンだ。
 660平方メートルに33席という余裕を持たせたフロアにはネイルだけでなく全員専門のヘアーカラーリストがいる専用スペースとプロの運動選手を顧客に持つトレーナーが常駐したマッサージ用のボディーケアスペースがある。友人との待ち合わせにも使えるラウンジなども用意し、「快適さを追求するため、すべてに徹底してこだわった」(同店広報)。
 両手足ケアのサービスを受けた場合の料金は2万円程度から。「2人に手足同時にサービスしてもらう女王様気分を味わえるなら決して高くない」(30代女性)。癒やしや美しさへの投資を借しまない女性を対象にした新しいビジネスといえる。
 こうしたサロンが目指すのは、華美なネイルアートや生活に支障をきたす長いつめではない「本当のネイルケア」だという。「歯を丈夫で健康に美しくする歯科医のようなもので、つめも健康で美しくあってほしい」とロングルアージュ取締役の柏木真一郎氏はいう。年齢とともにつめは弱くなり、それを大事にケアすることで快適で健康な生活が送れる訳だ。
 かつては事実上の「男子禁制」だったネイルサロンだが、最近は徐々に男性客も出入りし始めている。ゴルフでできた巻きつめや、かかとの角質や足の裏のタコ処理などのため最近は夫婦やカップルで訪れるケースも多い。妻に連れられて来た50歳代の男性は、「つめや足裏の手入れとマッサージが定番。月に1回夫婦で通うのが楽しみ」という。完全予約制の個人サロンであれば周りに気もつかわず夫婦だけの空間にもなる。
 今年創設20年目を迎える日本ネイリスト協会(JNA)は11月に東京・ビッグサイトで世界最大級のネイルイベント「インターナショナルネイルエキスポ」を開催する。世界のネイルケア業界やマニキュアリストが集まり、2日間で1万5000人の集客を見込む。「ネイリストの地位向上と業界の認知度を高めたい」(JNA事務局古畑諭三氏)。日々、ネイル技術や材料も進化している。顧客層の多様化も手伝って、「化粧の一種」と位置づけられていたネイルケアは個人の生活に応じた習慣や身だしなみとして浸透していきそうだ。


(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2004.4.13日経産業新聞より)

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広がる制汗剤の市場
独自技術で機能をアピール■中高生対象の新製品も
 

  最も体臭が少ない人種と言われる日本人だが、汗やにおいにはとても敏感だ。ニベア花王によると、制汗剤市場は約270億円。季節要因に左右される市場でもあり、昨年のような記録的な冷夏では影響も出るが、においに対するケアの意識が季節にかかわらず年間を通して高まっており、用途に合わせ種類も豊富になってきている。
 背景には都市のヒートアイランド現象で汗をかきやすい環境に変化していることや「通勤ラッシュ時の電車内や会社の込んだエレベーターでのニオイが苦痛」(OL)「ニオイ=不潔なイメージだから1年中気になる」(高校生)などがある。
 今春はトップブランド3社を中心に各社が独自技術で開発した機能面と新しい香りで商品特徴をアピールし、ラインアップを拡大するなど積極的な展開が見られる。
 ニベア花王は日本発売30周年を機に「エイト・フォー」を大幅刷新した。10代が対象のパウダースプレーにはべ夕つきの脳みに対応する汗に強い「サラサラキープパウダー」や「消臭緑茶エッセンス」を配合した。デザインのリニューアルとともに、人気の高い2種類の新しい香りを加え、全6種類とした。
 ライオンの「バン」は汗によるベタつきを解消する「バン ドライ」とにおいを抑制する「薬用バン ゼロ」を品揃えし、さらに進化させている。今年は主力商品のパウダースプレーで、新たに開発に成功した「汗センサーパウダー」で汗をすばやく感知し肌を冷却して汗の分泌を抑えるほか、ナノテクノロジーを活用した「超ドライパウダーでサラサラ感を高める。また新しい香りを1種加えて全7種類にもなっている。
 資生堂の「エージープラス」は2001年2月に無香科タイプで消臭効果の高い「高機能パウダースプレー」という新ジャンルを築いた。銀の殺菌力(銀含有ゼオライト)でにおいの元を完全に取り去り長時間におわなくしてしまう点でこれまでの制汗剤と一線を画す。「わきがなど深刻に悩む人を中心に、消臭面で高い効果を実感いただいた」(同社)というように、発売以来2200万個を超える出荷実績を誇る商品となっている。
 今年は「すでにかいてしまった汗のにおいを消臭」し、「汗や皮脂によるベタつきを抑え、サラサラに保つ」2つの効果をパワーアップさせたパウダースプレーNAを発売した。香りつきパウダースプレーの市場規模が最も大きいことから、無香料に加え、今春初めて「高機能・香りつきデオドラント」として3種の香りつきを発売しブランド強化を図っている。
 これまで機能性重視の対象は20‐30代だったが、いまや幅広い年代層に購入されているようだ。最近は使用開始時期が低年齢化しており、「体育後の体臭が気になり始めた」中学生があたりまえに使う場合も多い。今春、エフティ資生堂から中高生を対象にした「ドゥ・アン・ビィ」という新ブランドも誕生した。かわいい形状とデザインで携帯性を重視し、エージープラスの銀含有ゼオライトを配合し消臭面も訴求しつつ、香りのイメージにあったかわいいネーミングにするなど「ガールズ系デオドラント」として位置づけている。
 年齢層やライフステージによって、制汗デオドラント剤に対して消費者の求めるニーズがどんどん多様化している。東邦大学大橋病院美容医学センター長の漆畑修氏が「ムダ毛処理後などあれた皮膚に使うと刺激になって軽い皮膚炎になることもある」というように、今後、消臭効果の高機能性や香り、使用感だけでなく肌に優しい付加価値のある商品開発も求められるだろう。


(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2004.5.18日経産業新聞より)

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マイクロソフトの進化する「Xbox」
「チャット」の臨場感■多機能マシンとして期待
 

 注目される産業の常だが、ゲーム機は「勝ち組」「負け組」のレッテルをはられやすい分野だ。日本人のゲーム人口は推計で約3400万人と世界の最先端市場。しかしパソコンや携帯電話で余暇を楽しむ人が増えたため、家庭用ゲーム機市場は減少傾向が顕著になっている。転換期を迎えた今、新たなユーザーや利用方法を開拓する挑戦意欲はシェア競争に苦戦している企業ほど高いようだ。
 その代表例がマイクロソフトが5月27日に発売した「Xboxプラチナパック2」。ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の「プレイステーション2」に比べると、テレビCMなどPR活動は地味だが、流通業者の間では評価が高い。本体とソフト2本、コントローラ2個、DVDビデオ再生キット、オンラインゲームサービスの2ヵ月間無料カードなどを含めても税込み価格1万9950円。競合上、値下げを断行してきた結果、業界でも最も競争カのある価格になった格好だ。
 だが、Xboxの機能を解剖していくと単なるゲーム機の概念を超えて、新しい展開が見えてくる。Xboxのオンライゲーム利用者はすでに全世界で100万人近くに到達。「Xbox Live」と呼ばれるサービスでは、3、4ヵ月ごとに機能を追加している。
 オンラインゲーム中に欠かせない「チャット」にもひと味工夫が凝らされている。通常は文字のみの交信だが、「Xbox Live」はボイスコミュニケーション、つまり自分の声で会話ができる。今まではゲーム中でのコミュニケーションはキーボードによって表現されていたが、実際に感情を伝えるのにコントローラーから手を離して、キーボードを打つタイムラグがあった。ボイスコミュニケーションではリアルタイムに感情が相手に伝わる。このライブ感が非常に新鮮だ。
 これらの機能はゲームマニアの需要とは一線を画す。最後まで謎を解くのに何十時間も要したり、より複雑なストーリー展開が組まれているゲームが増え、忙しい人が敬遠している傾向もある。以前ゲームをやっていた若年層も、入試や就職のタイミングでやらなくなったのに加え、携帯電話でのメールや娯楽に移っているとの分析がある。
 限られたお金と時間をどうゲームに向かわせるか。個人の生活スタイルに合った機能・サービスとはーー。ゲーム機市場の縮小傾向は、こんな根本的な課題を突き付けている。
 マイクロソフトは先月ロサンゼルスで開催されたゲーム見本市(E3)でXboxを「テレビ電話」や「ネット上の娯楽コミュニティー」に進化させる構想の一端を発表した。ブロードバンド環境が他国より進んでいる日本では今後、会員同士が相手の顔をみて会話を楽しむ機能や、皆で音楽を楽しめるサービスなどを提供するという。ちょっとしたテレビ会議などが手軽にできるようになれば、ゲームユーザー同士のコミュニケーションだけでない新しい展開が期待できる。
 従来のテレビゲームの主力市場であるファミコン世代は30歳‐40歳代となり、多様なデジタル機器・サービスに目移りし始めている。だが「Xboxはリビングルームに置く、多機能マシンとして一度はゲーム機から離れた人たちを含め多くの人々を手繰り寄せたい」(マイクロソフト業務執行役員 Xbox事業本部 事業開発室長、泉水敬氏)としている。家庭のデジタル化の覇権争いに、ゲーム機がどこまで食い込めるか。メー力ー間のシェア争いよりも、そちらの方から目が離せない。


(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2004.6.15日経産業新聞より)

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イセ食品の「ブランド卵」開発
育種・配送まで一貫した低温管理■3世代前までの生産履歴追
 

 日本の消費量は年間1人あたり320個と世界で断トツの1位。火を通さず生で食べる習慣もある。にもかかわらず業界では衛生管理の統一基準が存在しない--。そんな食品とは鶏卵である。
 かつて「物価の優等生」や「スーパーの客寄せ食材」などと言われてきた卵。だがパックに生産地や賞味期限、品質の表示はなく、安さを理由に消費者を引き付けてきた時代が長く続いていた。
 しかしこの数年で店頭の卵売り場は様変わりした。1パック(10個入り)150円程度の普通卵と並んで、今や無数の「ブランド卵」並ぶ。「ブランド卵」とは栄養面や育て方などにこだわった付加価値の高い卵のことだ。1パック(6個入り)200-600円で定価販売され、1個の価格は特売品の4-5倍と高い。
 現在、ブランド卵の銘柄は関東・首都圏だけでも300点以上といわれる。しかし品質や安全性の表示はまちまちで続一基準がない。「あまりにも多彩な商品群でどれを選べばいいのかわからない」と惑う消費者の声も多い。
 だがBSE(牛海綿状脳症)や鳥インフルエンザなど、食品の安全性に対する不信感から明らかに変化の兆しが出ている。
 この半年間、鶏卵業者を巡る悪いイメージが定着してしまった感がある。鳥インフルエンザの感染を隠して被害が拡散した浅田農産の鶏舎の光景が頻繁にテレビ映像で流され、不透明な事業者の経営実態が明らかにされた。
 「精神論で安全・安心を唱えても信頼してもらえない。システムとして安全性を確立したい」と、鶏卵業界で東京都の「生産情報提供食品事業者登録制度」第1号となったイセ食品の伊勢俊太郎社長はいう。
 そんなイセ食品の先進的な衛生管理の手法から、変化する鶏卵業界をのぞいてみたい。イセの年間総生産量は12万トン。日本のシェア7%近くを持つ最大手である。
 育種から配送まで一貫して低温管理し、鶏舎にはサルモネラ菌など有害な菌をもたらす野島・ネズミの侵入をほぼ完全に防ぐウインドレス(窓なし)鶏舎を採用した。危険度分析による衛生管理(HACCP)も…導入し、親鶏と、さらにその親の「3世代」をさかのぼることができるトレーサビリティー(生産履歴の追跡)にも対応した。農場1ヵ所への投資額は50億円に上り、鶏糞養の有機化や浄化槽も備えている。
 厳格な衛生管理のもと、同社は「ブランド卵」の開発に早くから取り組んできた。主力の「森のたまご」=写真=は今年で発売10周年を迎えた。客寄せの赤字部門だったスーパーなどの卵売場を「もうかるコーナー」に転換させた商品だ。「森のたまご」の成功に触発され、各杜のブランド卵競争は激化の一途をたどっている。
 ドコサヘキサエン酸(DHA)、ビタミンDやE、ヨード、アスタキサンチンなどを加え栄養強化を訴えた商品。非遺伝子組み換えや植物性たんぱく質の飼料のみを使ったもの、コレステロール値を下げるものなどにしのぎを削る。
 日本の卵の市場規模は4000億一5000憶円と巨大産業になった。まず生産者が自主的に衛生管理を徹底させ、行政がそれを評価するガラス張りのシステムをつくることが急務だ。その上で、名ばかりではない「ブランド卵」の機能性競争やおいしさの研究が進むことが望ましい。

イセ食品の主なブランド卵
商品名 特徴・含有栄養素(カッコ内は一般卵との比較値) 希望小売価格(1個)
森のたまご(白玉) DHA、ビタミンE(約5倍)・ドコサヘキサエン酸(約3倍)含有 32円
海のめぐみ(赤玉) 抗酸化作用をもつアスタキサンチン、ビタミンD含有 55円
伊勢の卵(赤玉) DHA(約3.6倍)、ビタミンE(約20倍)、EPA含有 105円
胃もよろこぶ卵 胃腸内のピロリ菌(胃潰瘍の原因菌)を体外に排出する生理活性物質含有 315円

(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2004.7.20日経産業新聞より)

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消費減少するコンドーム
女性へ配慮した製品開発進む■普及には教育・医療の協力も必要
 

 コンドームの消費が減少の一途をたどっている。出荷数は10年で40%減り、少子高齢下の影響をはるかに上回る落ち込みだ。技術的には世界をリードしてきた日本のコンドームメーカーだが、製品開発だげでなく「エイズ・性感染症予防」の観点からも普及にカを入れ始めた。
 先月、タイのバンコクで第15回「国際エイズ会議」が開催され、街のあちこちでコンドームが配られた。世界のHIV(エイズウイルス〕感染者は3780万人にのぼり、2003年には500万人が感染、約300万人が死亡した。先進国で唯一HIV患染者数が増加しているのが日本である。クラミジアや淋(りん)病などの性感染症も同じペースで急増している。
 そんな動きと反比例するかのようなコンドームの消費減退。英BBCは7月にHIVに対する危機感・警戒心のなさや性教育の貧弱さなどを厳しく指摘しながら「Japan's Aids time bomb(時限爆弾)」と報じた。
 需要拡大に向けて、メーカーはどんな取り組みをしているのだろうか。国内シェア55%と業界1位のオカモトは技術とマーケティーングの両面で奮闘している。
 まずは「薄さ」の追求。消費者アンケートでも95%が「薄さ」を商品選びの基準にしていると答えている。破損しやすい「天然ゴム」から、戦後は「天然ゴムラテックス」へと技術革新が進み、オカモトは1968年に装着感のなさと丈夫さを兼ね備えたベストセラー「スキンレスシリーズ」を開発した。昨年11月発売の薄さ0.03ミリの商品「003」隠れたブームとなっている。
 だが「店頭で買うのは恥ずかしい」ため、消費者のナマの声を商品開発に役立てるは難しい。女性の場合はなおさらだ。それでもオカモトは徹底したモニター調査や座談会形式の調査を続け、女性に優しいコンドーム「motif」を開発した。外装は優しい雰囲気のオレンジ色で、一見するとタバコの箱のよう。潤滑用のジェルを多めにするなど、女性への配慮を前面に打ち出した。先月、セブン-イレブン・ジャパンで先行発売した。
 買いやすさにこだわるのは、この10年で購入チャネルが大きく変化したためだ。かつては薬局が主流だったが、今はドラッグストアとコンビニで66%を占める。コンビニのPOS(販売時点管理)データを見ると、時間帯は午後8-12時、時期では金曜夜、クリスマス、GWなど連休前の購入個数が圧倒的に多い。コンビニは「緊急性」の高いユーザーが駆け込む店なのだ。
 消費者のし好は多様化している。オカモトの調査によると、商品を選択する要素は、価格(36%)、製造元(25%)、機能(21%)。香り、形状、色、大きさ、厚み、パッケージデザインの順だという。
 日本の性感染症サーベイランス研究班によると現在クラミジア感染は性経験者の10人に1人の割合にまで高まっている。8月は高校・大学生が夏休みになり年間通じて最もコンドームが売れる時期だという。
 まだ日本では「親子で使用を話し合うのは恥ずかしい商品」の一つでもある。商品を開発・販売するメーカーの立場からも様々な努力もあるが、病気を防ぐための普及啓発には、教育・医療・行政による協力体制の充度も急がれるテーマだろう。

オカモトのおもな商品ラインアップ
商品名 特徴 希望小売価格
モティーフ=写真 女牲の声から生まれた。たっぷりジェル 500円(6固入り)
スキンレス1000 薄くて丈夫でやわらか。40年来のベストセラー 1000円(12個入り)
ゼロゼロスリー 薄さ0.03ミリのコンドーム。業界最薄 2000円(12個入り)
ベネトン500 ベネトンブランド。コンビニ認知度ナンバー1 500円(6個入り)
ゴクアツ 暑さ1ミリの極厚コンドーム。ロングプレイに 1500円(12個入り)

(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2004.8.24日経産業新聞より)

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カシオ計算機の電子辞書
英語辞書 時代に合わせ■韓国語もいち早く採用
 

 最近、受験生のかばんに必ず入っているのが電子辞書。何十冊(数十キログラム分)もの辞書が、わずか250グラム前後の端未に収納されているとあって、10代から80代まで老若男女にとって「言葉を操るための国民的ツール」に育っている。
 登場は1980年代。電卓技術を応用して商品化されたが、当時の半導体メモリーや液晶表示装置には機能やコストに限界があり、収録語数・表示能カにも制限があった。90年に入って主要部品のコストダウンも手伝い、ソニー、セイコー電子工業(現セイコーインスツル)が「電子ブック」形態の本格派タイプ(見出し語と語いの文字情報を省略せず収録できる)を発表した。
 その後、家電、IT、精密機器メーカーが相次ぎ参入。99年ごろから各杜の競争は一気に激化する。そんな中、ライバルに大きく水をあけたのはカシオ計算機である。
 成功の秘けつは、英語辞書に「ジーニアス」(大修館書店)を先駆けて採用したことだ。メーカーで電子辞書を開発する担当者の中心世代は30-40代。彼らが高校、大学生の時代には研究社の辞書が圧倒的なシェアを誇っていた。このため電子辞書にも研究社を使っていたが、実は、今の学生が最も信頼しているのは大修館書店の辞書。電子機器とはいえ、重要なのはソフトでありコンテンツだ。コアユーザーのし好にいち早く気付いたカシオが現在、国内で5割近いシェアを獲得したのは、'ソフトの優位性が原動力だった。
 電子辞書の性能は主に半導体メモリー容量と表示装置に左右される。いずれも技術革新のスピードが速く、それに伴い電子辞書の進化もめまぐるしい。検索した単語をネイティブの発音でしゃべったり、2000の例文を収めた会話集を搭載したタイプもある。収録辞書数も年々増え、今年は50の辞書を標準搭載するものまで出た。
 カシオの商品群の充実ぶりは突出している。中でも話題の商品は、今月国内で初登場した韓国語辞典収録の電子辞書「エクスワード XD-H7600」(5万400円)。NHKのTV放映で大ブレイクした「冬のソナタ」の影響もあってテレビの韓国語講座は人気が高い。
 韓国語の学習者に定評あるプライムの韓日・日韓辞典、韓国語会話集を収録。韓国語独自のハングルをキーボードから直接入力して、効率的な検索が行える。
 カシオによると、こうした本格派タイプの電子辞書の販売台数は今年230万台になる予想で(全体予測は335万台)、この5年間で4.5倍以上になった。
 しかし、利用者のすそ野が広く、二ーズも多様なだけに、一つの商品で全ての人を満足させるのが難しい商品でもある。今後、複数言語が必要な人、医学・法律など専門性の高い分野を勉強したい人や「現代語の基礎知識」など毎年更新されるものは、CD-ROMや外部メモリーを使って「必要な最新情報だけ」を追加で収録する自分専用電子辞書派も増えていくだろう。

エクスワードXD-H7600の収録辞書
プライム 韓日辞書
プライム 日韓辞書
ひとり歩きの韓国語自遊自在
リーダーズ英和辞典
リーダーズ・プラス
ジーニアス英和大辞典
ジーニアス和英辞典
ロングマン 現代アメリカ英語辞典
ロングマン 英語アクティベータ
ロングマン ロジェ・シソーラス
英語類語辞典
広辞苑
逆引き広辞苑
漢字源
カタカナ語新辞典
日経 パソコン用語事典
英会話 とっさのひとこと辞典

(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2004.9.21日経産業新聞より)

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文庫本カバー利用の広告メディア
NTTなど約30社が利用■書店への来店客呼び込む
 

 読書の秋。通勤電車に乗る時に、本や雑誌を手にしたくなる季節だ。だがおしゃれなスーツを着こなして完ぺきにメークしたOLにとって、バッグから取り出す文庫本が安っぽいクラフト紙に包まれていては様にならない。
 おしゃれで使いやすく、かつ革製品のように高すぎないブックカバーはないものかーー。そんな若い女性の声を受けて開発されたのが「(企業や製品などの)ブランドを印刷したブックジャケット」(通常ブラジャケ)だ。ハイセンスで手触りのいい高級エンボス紙使用の無料ブックカバーである。
 昨年11月に広告会社のセットアップ(東京・港区、魚田雅靖社長)が開発、導入した文庫本用ブックカバー広告である。首都圏の主要101書店に専用ラックを置いて無料で配布している。この1年で「TBS」「ユニバーサルスタジオ」などブラジャケ広告を利用した企業は30社近くある。今月新たにNTT東日本のキャラクター電報「くまのプーさん」も登場、女性の人気を集め、店頭では品切れが続出している。
 ブラジャケは本好きの人々の微妙な心理を巧みに生かした新しい広告手法といえる。電車で周囲の人に自分が読む本のタイトルを知られたくない。でも他人が持つ本はいやでも目に入る。ならば本のカバーに情報を印刷し、読者が持ち歩くことで「広告塔」になってもらおうとのアイデアだ。
 NTT東日本は結婚電報が伸びてくる秋にぶつける形で「携帯電話や電子メールが全盛の時代だからこそ、電報を再評価してもらうための広告として、本カバーのフリークエンシー効果(高頻度で消費者が広告に接触する)が有効」(電報サービス部門)と考えて、ブラジャケを選んだ。
 ターゲットは20-30歳代の女性。プーさんのかわいらしさも手伝い、書店ではあっという間に品切れになった。「ブックカバーは人間が持ち運ぶ広告メディア。既得権に縛られない新しいスタイルを確立したかった」。セットアップの浜口潤取締役は狙いを語る。
 広告料金は配布枚数が2万5000-10万枚で2-4週間ラックを占有する場合、120万ー250万円程度。ラックを2週間丸々、1社で占有する「ジャックプラン」もある。100書店に2週間で5万枚を配布する180万円(期間限定価格)のプランが人気だ。
 雑誌に広告を掲載する場合、読者が目に留める「接触率」は平均1秒足らずとも言われる。それに比べブラジャケは、最終的に読者が企業・商品ブランドを認識する「到達率」が高い。「何度も接触する上に、コストも安い」(セットアップの浜口氏)と利点を強調する。
 ブラジャケを配布するラックを設置する取扱書店には「設置料」が支払われるが、それ以上に、ブラジャケ目当てのリピーター客を呼び込む効果も期待できる。Mr.Childrenのアルバム販促にブラジャケが利用された時は全国からの問い合わせが書店に殺到した。先月、ブラジャケ配布のサービスを始めた弘栄堂吉祥寺店の荒木長一店長は「あっという間になくなっていくのを目の当たりにして驚いた。店の価値を高めるのにも一役買いそうだ」と効果を実感している。大手書店でも丸善や有隣堂に続き、今月から紀伊国屋書店も導入している。
 今秋、ラックを改良して、ブラジャケのサンプルをあたかも書店内に飾るポスターのように見せることが可能になった。関東のローソン直営店60店にも置き、オンライン書店の付加サービスとしても展開している。年内には関西でも試験導入する予定。セットアップは「将来は、列車丸ごと1種類の中吊り広告で埋め尽くすトレイン・ジャックと連動させるなど、交通機関でも広げていきたい」と意欲的だ。

(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2004.10.26日経産業新聞より)

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松下電器のMD「MJ59」
スピーカー一体で新しい使い方■女子中高生の仲間意識突く
 

 携帯音楽プレーヤー市場が未曽有の乱戦模様を呈している。アップルコンピュータの「iPod」に代表されるハードディスク内蔵型や、半導体メモリーを使ったMP3プレーヤーなど新規参入組が目新しさも手伝って飛躍的に出荷を伸ばしている。だが迎え撃つMDプレーヤーに陰りが見える兆候はない。
 「あゆのMD」。家電量販店の携帯型音楽プレーヤーの売り場では、女子中高生が数ある商品の中からためらいなくパナソニックの新製品を選び取っている。スピーカー一体型の「MJ59」。決め手は「あゆ(浜崎あゆみ)」のCMだ。
 携帯型音楽再生機の需要は年間600万台強。ここ数年、カセットテープ方式のヘッドホンステレオやCDプレーヤーの販売が落ちる一方で、MDプレーヤーはわずかながら上昇し、300万台強を維持している。業界ではMDプレーヤーとデジタル音楽プレーヤーの購入層がすみ分けていると分析している。
 「2003年までは(MDプレーヤーの)購入層が中学生から50歳代まで幅広かったが、最近は中高生が中心。デジタル音楽プレーヤーは大学生から30代、MDは中高生と40代以上と鮮明に分かれてきた。(松下電器パナソニックマーケティング本部 村山好秀氏)
 中高生に根強い人気を誇る第1の理由は低価格だ。デジタル音楽プレーヤーの主流が3万-4万円なのに対し、MDプレーヤーの売れ筋は1万2000-2万円と半分以下。また中高生世代は日常的に携帯電話でメールする。思うほどパソコンに接しておらず、音楽の録音やダウンロードは敷居が高いようだ。
 松下電器は商品づくりのターゲットをこうした消費者に絞った。まず考えたのは充電器内蔵型のスピーカーを一体化したことだ。「学校や旅行先などいつでもどこでも仲間と音楽を楽しめるもの」(村山氏) 。音楽は自分だけの楽しみであると同時に友人とのコミュニケーションツールでもある。若者の仲間意識を突いた発想である。
 スピーカー一体型の「Dockin' style MD」シリーズは発売4年目だが、一貫して中高生ユーザーを念頭に置き、初代から「浜崎あゆみ」をCMに起用。認知度を高めることに成功している。先月末にリニューアルした新商品「MJ59」=写真=では、本体とスピーカー部分のカラー素材を統一。半透明のスピーカー部分は再生時に発光する。携帯型とはいえ音質には妥協せず、音量を上げても十分に楽しめる性能を確保している。
 日々、多種多様な機種、メーカーが競合している分野だけに、メーカー側だけの発想に陥らず、消費者の視点に立った製品開発が欠かせない。その一環として松下電器では10月末から初めて携帯サイト上で高校生を巻き込んだ販促活動を始めた。
 Dockin' style MD「MJ59宣伝部」と携帯サイトを立ち上げ、現役女子高生が宣伝部長として活動。全国の高校生の活動部員に指令を出し、MJ59の宣伝活動を展開する。商品のコアターゲット層である高校生自らが、消費者へのメッセンジャーになるという試みだ。
 開始後1週間で2200人以上が「部員登録」する人気ぶりで、活動報告メールも数多く寄せられている。「MJ59宣伝部」担当の同本部、早崎康子氏は、「『スピーカーがついているとダンスの練習にすごく便利!』など、女子高生ならではの意見も多い」と手応えを感じている。
 MDには連続再生時間の長さや、使い勝手のよさ、価格など多くの魅力がある。どのようにしてユーザーのニーズを掘り起こし、新しい使い方を作り上げるか。技術進化に加え、「音楽をどこまで楽しめるか」といったメッセージを商品に込めることが、MDの存在意識を提示することにもつながる。

(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2004.11.16日経産業新聞より)

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サントリーのウイスキー「北杜」
まろやかな飲みやすさ■新しい飲み方も提案
 

 アルコール度数が高い酒から、カクテルなどの「おしゃれな酒」へ一一“ここ数年、こうした若者のし好の変化で押され気味のウイスキーだが、今年の忘年会では「モルトウイスキー」の復活に注目している。実はモルトウイスキー市場は右肩上がりで、販売量を過去10年で2倍以上に増やしている。
 中でも目を引くのがサントリーの『北杜12年』。今年6月の発売以来、順調に売り上げを伸ばし当初の年間販売計画2万5000ケースを10月に達成。年内には4万5000ケース程度の販売を見込む。「中高年の酒」というイメージが強いウイスキーを、若者向けに脱皮させたことが成功の要因だ。
 ウイスキー愛飲者の中心は40一50歳代。消費漸減の原因をサントリーでは「会社の上司との飲み会が激減したこと」(ウイスキー部の佐々木明広氏)と分析する。昔は上司に飲みに連れて行かれ、自然とウイスキーの味を覚える土壌があった。しかしいわゆる「新人類世代」はそうした機会が減り、世代が高齢化するのに伴い、ウイスキー文化が継承されなかったと見られる。
 そこで、20一30代を中心とする愛飲者を開拓するために開発されたのが『北杜』だ。口当たり、香り、のどごしなど「個性」が売り物の従来のモルトウイスキーに対して、まろやかで飲みやすいのが特徴。ツンとしたウイスキー独特の香りも極力抑えた。さらにウイスキーをミネラルウオータ一で1:1に割る「ハーフロック」という新しい飲み方も提唱した。
 テレビCMでもイメージを刷新。若者に人気の岡田准一さん(23)を起用。『ウイスキー入門』と銘打ったCMは成功し、サントリーの洋酒ブランドでは過去最多の問い合わせがあったという。「焼酎は原料に麦を使った飲みやすいものから、芋や黒糖など個性的なものへ需要は広がっている。ウイスキーも飲みやすい『北杜』を通過点に奥探い世界を楽しんで欲しい。」(佐々木氏)。中には『初めて飲んだけどおいしい。もっと試してみたい』(20代女性)という人も多く、焼酎ブームに続きモルトウイスキーブームを予感させる。
 また、最近の研究でウイスキーと健康の関係が明らかにされてきた。同量のアルコールを含むビールに比べ糖分は約250分の1でカロリーも低く、他のお酒と比べ、飲用時に血中アルコール濃度が上昇しにくく二日酔いしにくい。ウイスキーの樽材由来の香りにはリラックス効果があり、オーク樽に由来するポリフェノールを含有し、プリン体がほとんど含まれない一一などの利点が証明された。メラニン色素を抑制する成分を含有することも分かっており、メーカー側は美容や健康にプラスのイメージを強調している。
 「お酒」は古来、重要なコミュニケーションツールである一方で、過度の飲酒や誤った飲酒、未成年の飲酒習慣のまん延など様々な問題点も指摘されている。欧米では企業の社会的責任(CSR)の観点から、酒類やたばこ、兵器などのメーカーを投資対象から外す動きもある。このためサントリーでは専門部署を置き、適性・適量飲酒を呼びかける「モデレーション広告」をほぼ2ヵ月に1回、全国紙で展開。1986年から始めたこの取り組みは、今月で100回目となった。
 サントリーは昭和初期、日本では難しいとされた国産ウイスキーの製造に挑み、初めて成功させた会杜だ。近年のウイスキーにつきまとう「中高年の酒」「酔っぱらうための酒」といった商品イメージを払しょくし、成熟した酒文化を若い世代にも広げたいという思いを『北杜』に託している。

(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2004.12.14日経産業新聞より)

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消費リーダー見つけた!!
「キレイな私」徹底追求 持ち物は自分を「かっこよく」演出する物でなければならない(写真はブランドもののiPodminiの。専用ケース)
 昨年は中高年女性の派手な消費行動が目立ったが、「セカチュー」(世界の中心で、愛をさけぶ)、「伊右衛門」(サントリーの緑茶飲料)など若い女性がヒットを後押しした商品も多い。10代後半一20代半ばの世代は、女子高生、女子大生、OLの3グループに分類され、根底には「(他人から)見られる」ことを強く意識しているという共通点がある。
 そんな世代を顧客として取り込む第1のキーワードは「美」。「VAIO」「iPod」のヒットに見られるように、彼女たちはスタイルを重視する。持ち物は自分を「かっこよく」演出するものでなければならない。自分の美しい姿を記録したり保存したりすることにも熱心だ。「プリクラ」をはじめとする写真シール印刷機ブームに端を発し、カメラ付き携帯電話、デジタルカメラなどの新製品に飛びつく。600億円超の規模に育った写真シール印刷機の市場では昨年、ナムコが発売した「雪月花」という全身シール機が大ヒットした。

「キレイに写る」と評判になったためだ。第2に「楽」。女子高生という「期間限定」の自己のブランド意識を背景に「今を楽しむ」ことへの執着が強い。携帯電話のゲームに興じ、マンガ喫茶でテレビゲームをする。
 重要なのは、3グループのニーズの違いを認識することだ。女子高生の生活の中心は「コミュニケーション」。お小遣いは月5000-1万円が一般的だが、3000円近くをプリクラなどに使う。
 一方、大学生は「情報量」を重視する。アルバイト、サークル活動、学校などさまざまな舞台を持つため、膨大な情報や人間関係を整理整頓するパソコンなどのツールが不可欠だ。OLは「自分への投資」を惜しまない。エステや永久脱毛も一般的になってきた。
 今まで「携帯で満足」だった女子高生がパソコンを使い始め、習い事を始める女子大生も増えてきた。低年齢化が生む新たな市場の先読みが不可欠になる。
中村泰子氏(なかむら・やすこ)
実践女子大卒、1988年ブームプランニング代表取締役。2004年温熱楽塾主宰。
著書「『ウチら』と『オソロ』の世代」(講談社文庫)。
(2005.1.1日経産業新聞より)
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米国発ヨガのDVD
ジムのヨガ忠実に再現■音楽やパッケージもこる
 

 忘年会に新年会、おせちを食べて家でごろごろ……。気付けば体が重く、体形も崩れ気味。そんな人たちの不安を反映してか、最近、「ヨガ」が静かなブームになっている。
 発端は「ハリウッド・ヨガ」。ロサンゼルス発の新タイプのヨガで、インド古来の手法を生かしながら、マドンナやメグ・ライアンなどハリウッドスターが体形改善の目的で実践していることで人気に火がついた。アメリカではヨガ・グッズやDVDが飛ぶように売れ、公園で集まって犬と一緒に行うなど、一種の社会現象にまでなっている。
 日本でも2004年11月に発売されたDVD(「HOLLYWOOD YOGA」=写真左、「POWER YOGA」=同右、制作・著作・発売元:ビクターエンタテインメント)の売れ行きが好調。1ヵ月で年間販売見込みの2倍を売るなど、DVD市場で異例のヒットとなっている。
 ハリウッド・ヨガは昨年始めから女性誌のダイエット特集などで取り上げられるようになり、セレブにあこがれる女性たちの中で人気が上昇。関東に25店舗展開するフィットネスクラブ「ティップネス」では02年10月に「ハリウッド・ヨガ」講座を開設し、すぐに予約満杯の状態になった。「エアロビクスなどの激しいスポーツができなかった人でも参加でき、愛好者の年齢層も幅広い。現在の参加者は当初の1.5-2倍」(ティップネス広報部の澤田政利氏)。最近は体のゆがみを矯正しながら均整の取れた体形を目指す「ハリウッド・ヨガ」に加え、代謝を高めてぜい肉を落とす「パワー・ヨガ」の講座も開設した。
 ビクターエンタテインメントはこのブームに真っ先に目をつけた。同社は「家庭でできる簡単エクササイズ」としてDVD制作を決断。担当の平井映子ディレクターは「既存のヨガ関連のビデオやDVDはぱっとしないものばかりだった」と開発の動機を語る。ティップネスのヨガ講座をそのまま収録し、愛好者はプログラムをそのまま実践することでジムと同等の効果が得られるという。
 ティップネスと提携して「ハリウッド・ヨガ」「パワー・ヨガ」の登録商標も利用。「おしゃれなイメージのハリウッド・ヨガに合うよう、パッケージや音楽にもこだわった」(平井氏)など、同社の強みを生かした作品に仕上げた。
 DVDの発売と前後してテレビの情報番組が相次いでハリウッドでのヨガ・ブームを取り上げたことも人気に拍車をかけた。ヨガによるダイエットのメカニズムは鼻呼吸による脂肪燃焼。パワー・ヨガは、連続した動作を続けるため普段使われない遅筋(酸素を利用して脂肪を燃焼し、持続的な運動に使われる筋肉)をより多く使う。動きが激しくないため「私にもできそう」と今まで運動をしていなかった人が始めるケースも多いようだ。
 アメリカの人気映画「Sex and the City」には「マイ・ヨガマットを持ってるだけでファッショナブルよね」という一コマもあるほどで、関連グッズの売れ行きも好調だ。プランタン銀座ではヨガマット(定価2625円、全8色)が入荷次第完売という状態が続いたほか、ルイ・ヴィトンではヨガマット入りバッグ(定価22万4700円、全3色)を販売。ナイキなどのスポーツメーカーもヨガウエア、ヨガブロック、ヨガストラップなどの関連商品に新規参入した。
 マタニティーヨガやゴルフヨガなど新たなジャンルも生まれている。健康、おしゃれ、伝統、手軽・・・・商品・サービスがヒットするうえでの要素を備えたヨガの市場拡大は、参入企業の増加とともに今年の目玉の一つとなりそうだ。

(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2005.1.11日経産業新聞より)

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資生堂のシャンプー「ティセラ・マジカルノート」
中高生向けに強い香り■新しい年のシャンプー強調
 

 「ブランド力」が問い直されている。モノ余りの時代にあって、明確で一貫性のあるコンセプトを消費者に伝えることはヒット商品を生む必須条件だ。
 約1600億円規模のヘアケア市場。注目されるブランドの1つが資生堂の「ティセラ」だ。今年で発売から10年の老舗ブランドとして、堅調な売り上げを維持している。強さのポイントは、女子中高生を意識した「香りのシャンプー」として一環して斬新な商品開発、リニューアルに取り組んできたことだ。
 先月発売された新製品「ティセラ・マジカルノート」=写真=は洗髪時と乾燥後でにおいが変わる設計だ。シャンプーとコンディショナーの香り成分の配合バランスを変えることで、業界で初めて実現した技術だ。「今のトレンドは『カッコかわいい』(=カッコよくてかわいい)。香りの変化を演出して『等身大の自分から大人な女性へ』という変身願望を満たす商品に仕上げた」(エフティ資生堂の飯塚陽一商品企画部課長)という。
 開発過程では、資生堂製品研究所の研究員が主力顧客層である女子中高生に徹底的にヒアリングを重ねた。結論は「中高生は強く、はっきりした香りに満足度が高い」。大人が酔ってしまうほど強烈な香りでなければ納得しないことに驚いたという。「学校で友達にシャンプー変えたことに気付いてほしい」(女子高生)という自己主張もある。香水をつける習慣のない中高生にとって、シャンプーの香りは「大人になる一歩手前」のオシャレともいえる。
 香りには流行がある。流行に敏感な中高生の心をつかむために、「ティセラ」の香りは常に最先端を意識して開発されてきた。CMも旬のタレントや楽曲を用いて「新しさ」を強調。今期は、「女優として頑張っている」と同世代に好印象の鈴木杏をCMに起用。
 初秋の棚替えの季節に新製品をだすブランドが多い中、毎年1月に発売し「新しい年のシャンプー」というイメージもアピールしている。中高生の目に触れるように、写真シール印刷機の一番人気「雪月花」にコラボレーションでティセラオリジナルスタンプを盛りこむなど、新たな試みを続けている。
 飯塚氏はヒアリングを通じて「大人っぽい中高生が増えている」と感じ、パッケージも香水のボトルに似せたデザインを採用した。演出しやすいパッケージは毎年小売店にも好評で、10年間の営業の実績もあり売り場作りも期待されているため、店頭でも目立つように装飾用のベールを用意するなど、小売店側が積極的に取り扱うような仕掛けにも工夫している。売れ行き好調で年間で500万個の売り上げ達成を見込む。
 ヘアケア市場では、詰め替え品の拡大や低価格競争に見舞われいる半面、一部の高付加価値商品が突出して売れている。「アジアンビューティ」という新しい価値で消費者の心をとらえた花王のシャンプー・コンディショナー「アジエンス」がその代表例だ。ティセラからもデフレ時代を生き抜く「ブランド戦略」を読み取ることができる。
 しかしブランド力だけで競争力を維持できるものでもない。ティセラには「香りシャンプー」というイメージが強く、機能性が訴求しづらいという悩みもある。ヘアカラーの普及などで昔に比べ女性の髪は傷みやすく、市場では高機能シャンプーに人気が集まる傾向もある。ティセラも泡立ちやトリートメント効果など改良を加えてきたが、前面に打ち出すものが「香り」に偏ってしまう。ブランドが譲し出す中核のメッセージを損なわず、いかに機能性を伝えていくか。今後の課題といえそうだ。

(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2005.2.8日経産業新聞より)

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サミーネットワークスの携帯電話ゲーム「北斗の拳」
人気コミック多重活用■実機に近い速度が評判
 

 書籍やテレビ番組のコンテンツ(情報の内容)を他媒体でも活用して、サービスや広告で相乗効果を出すメディアミックスの流れが加速している。従来は「テレビ+雑誌」、「雑誌+インターネット」など既存メディア間のパターンが多かったが、最近は2次、3次利用の夕一ゲットとして、若者の必須アイテムである形態電話の台頭が著しい。
 人気コミック「北斗の拳」が携帯電話向けのゲームとして人気を博している。1980年代に「週刊少年ジャンプ」誌上で連載され、2003年10月にはサミーからパチスロ機で登場した。10万台売れればヒットとされる同業界にあって、わずか半年で受注台数50万台を突破、史上空前のブームとなった。これは年間のパチスロ機販売の約3分の1を占めるほどで、現在ギネスプックに申請中だという。
 この人気はモバイル業界にも波及した。新潮社のコミック誌「週刊コミックバンチ」のEZwebサイト「ケータイ☆バンチ」なとが「北斗の拳」の着信ボイスや待ち受け画像を配信するサイトを立ち上げた。さらに携帯電話向けパチスロ・パチンコゲームなどのゲームソフトを提供するサミーネットワークスのサイト「サミー777タウン」では、04年2月にサービスを開始して以来、NTTドコモの公式サイト中、3カ月間続けて会員純増数1位を記録。現在では153万人の会員数を誇る。
 何しろ777タウンの目玉である北斗の拳のサービス開始日にはアクセスが殺到し、サーバーがパンクしたほどだ。背景には、パチスロ人気の余勢を駆った巧みな宣伝手法があった。サミーネットワークスで同事業を担当する小口剛・企画部課長は「スロット実機の人気で、もともとアプリケーションヘの期待が高かったが、サービス開始前からサイト上で『開発進行度90パーセント』などと予告を出し、ユーザー心理を高めていった」と語る。
 もともとこの携帯サイトはパチスロ機の宣伝広告の一環として始まった。携帯電話は通話以外に、小型のコンピューター、ゲーム機、データ通信などの機能も併せ持った複合端末。北斗の拳をゲームとして配信する絶好のメディアだったわけだ。
 一方、パチスロ機ユーザーの中心は小さいころテレビで同作品アニメに熱中した20歳代後半から30代。午後11時までスロット店で実機を打ち、帰りの電車の中で携帯ゲームに興じる熱狂的ファンも多い。ロコミの影響が強い市場だけに「スロット好きの仲間同士で話題になり広がる効果も大きい」との評もある。
 777タウンの人気の秘密は骨太なコンテンツ作りにある。「リール(数字ドラム)の回転速度が限りなく実機に近い」といった支持を利用者から受けている。「携帯ゲームが面白かったので、実機も打ちに行った」(20代男性)という「ゲーム→実機」の逆方向の流れがあるのも面白い。原作を知らない世代がゲームを通じてコミックを買う例も多く、ファン層の拡大に果たす役割は大きい。
 今年1月からは若者に人気の音楽グループ「ケツメイシ」のRYOが、サイト内で週1回のコラム(「部屋とスロットと私」)の連載を始めた。
 携帯電話を使ったサービスの成功例としてまずあげられるのは着メロだが、それでも年間市場規模は800億円程度にとどまる。名実ともに「ユビキタス(情報の遍在)」を実現した携帯電話の潜在力を生かせば、魅力あるコンテンツをより有カなサービスや商品に昇華させ、さらに大きなヒットを飛ばすことができるかもしれない。

(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2005.3.8日経産業新聞より)

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用瀬電機の「杉花粉マスク」
抗ウイルス素材を塗布■ナノテクで効果高める
 

 顔を覆うマスクに巨大なメガネ。街にあふれる「花粉防御体制」の人々に最初は不気味さを覚えたが、ここまで花粉症人口が増えると慣れっこになってしまった。マスクは完全に現代社会の必需品になった感すらある。
 今年の花粉飛散量は過去10年の平均値の2倍以上、去年と比べると数十倍とも言われる。花粉では何もかもが「過去最大級」の形容詞が付く今年、花粉対策用品が売れに売れている。量販店には花粉対策コーナーが設けられ、眼鏡、ガードスプレー、空気清浄機のほか、脱脂綿を棒状に加工した物を鼻に入れて鼻水を抑えるユニークな商品も所挟しと並ぶ。
 中でもマスクは様々な技術、アイデアを競う最激戦区。単なる季節商戦ではなく、スギ以外の花粉症、ノロウイルスの流行や鳥インフルエンザの脅威もあり、「通年商品」としての地位も確立しつつある。
 この時期のマスク市場の特徴は、「花粉遮断率99%」「立体3層構造」など高付加価値を売り物に、通常のマスク(平均価格300-400円程度)の1.5-3倍近い500-1300円が売れ筋となる点だ。2004年の市場規模は約110億円、前年比約10%伸びており、住友スリーエム、明治製菓など衛生用品専門メーカー以外の大手企業も続々と参入。高機能化、差別化でしのぎを削る。
 注目は、環境素材メーカーの用瀬電機(鳥取市用瀬町、若林一夫社長)が今月2月に発売した「杉花粉マスク」(税別625円)だ。4層構造の特殊不織布製フィルターで圧倒的な花粉の遮断力を持つ。花粉の侵入防止だけでなく、フィルターの撥水(はっすい)機能によって他人のせきやくしゃみの飛沫(しぶき)中にある細菌の侵入も阻止する。さらに「BR-p3」と呼ぶ抗ウイルス剤加工を塗布したことで、ウイルスの悪影響も防ぐ2段構造を採用した。
 「BR-p3」とは天然鉱石ドロマイト(白雲石)から生まれた抗ウイルス素材。鳥インフルエンザ研究で有名な鳥取大農学部の大槻公一教授と用瀬電機が共同開発した。安全性が高い原料のドロマイトを超微粒子に処理し、特殊加工を施すことで強力な抗菌作用を持たせた。いわば最先端の「ナノテクノロジー」から生まれたマスクである。
 鳥取大の研究によると、インフルエンザや重症急性呼吸器症候群(SARS)など4種類の呼吸器病ウイルスを10分間で10万分の1まで激減させたという。東急ハンズ池袋店では一時、「05年一押しマスク」としてガラスケースに入っていた。
 「花粉ならこれ、と店員に勧められて買った。マスクをしてもくしゃみが出ていた従来とは大違い」(30代男性)とユーザーの反応も良く、効果はロコミで広がっている。特にぬるま湯で鼻洗浄をして、杉花粉マスクを着けるとさらに効果的と好評だ。
 花粉症関連の医療費総額は5000億円以上とも言われ、経済に与える負担も小さくない。大げさにいえばハイテクが花粉症関連商品の開発と技術水準を底上げすることで、医療保険財政にも好影響を与えそうだ。
 従来マスクの販売量が多いのはインフルエンザなどが流行する12月から花粉症が落ち着く5月まで。しかし最近はイネ科の植物など花粉症は通年行事ともいえる。鳥インフルエンザなど感染経路や感染力の強さが解明されていない未知のウイルスも次々と発生している。
 今のところ「量販店に並ぶマスクは雑品扱い。医療用具許可を受けていない商品に表示基準はない」(厚生労働省医療機器審査監視室)のが現状。「遮断率××%」など効果の表示はメー力一の判断に任されている。ただ「マスクなしでは生きていけない」という人も多く、もはや「たかがマスク」とはいえない。マスクの高機能競争が活発になるに従って、よりユーザーに効果の目安と安心感を与える企業、行政の工夫が必要となるだろう。

(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2005.4.5日経産業新聞より)

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日本リーバとサントリー「リプトン リーフイン」
スリランカ産の高品質茶葉■ 老舗ブランドで「午後の紅茶」追撃
 

 ペットボトル飲料は行楽やスポーツに不可欠の存在となった。その清涼飲料市場では苛烈な競争が繰り広げられている。毎年1000種以上の新商品が投入され、生き残るのはわずか3種程度。コンビニエンスストアでは2週間程度で商品が入れ替わっていくという。
 2004年に前年比30%以上出荷が増えた緑茶分野では今年も新製品やリニューアル商品が続々と登場しているが、過熱気味の緑茶戦争は、紅茶分野にも波及しつつある。
3月に発売された「リプトン リーフイン」=写真=はその本命といえる。リプトンブランドを日本で扱う日本リーバとサントリーが共同開発し、高品質の茶葉の香りと味を強調した商品だ。
 「リプトン」の銘柄紅茶の歴史は古い。ほぼ1世紀前の1906年(明治39年)に「黄缶(イエロー・ラベル)」がロンドンからの直輸入で紹介され、その後、紅茶文化を日本に定着させた。同ブランドはいわば老舗中の老舗といえる。
 今回の新商品はさわやかな「本物のおいしさ」を表現するため、厳選したスリランカ産のハイランドリーフ(標高1200メートル以上の高知の茶園で栽培された高品質茶葉)を100%使用した。さらに1年以上の試行錯誤の末、7種類の茶葉を、3種類の温度で抽出したものをミックスして味・香り・後味のバランスをとった。
 「紅茶飲料の愛好者は(コーヒー愛好者などに比べて)、本物の味が分かっている人が多い」。サントリー食品事業部の今村直也課長はこう指摘する。その一方で、手軽に持ち運んで楽しめる「本格的な味のペットボトル商品がなかった」(同)のも事実。とにかく味へのこだわりを具現化し、サントリーの国内でのマーケティング力・流通力を組み合わせることで、緑茶に続くヒットを狙った。
 清涼飲料市場に占める紅茶分野のシェアは約5%に過ぎない。コンビニエンスストアでも棚に並べているのは「午後の紅茶」(キリンビバレッジ)、「紅茶花伝」(日本コカコーラ)、「リプトン」(サントリーフーズ)の上位3銘柄のみというところが多く、同3銘柄で80%以上を占める極端な寡占市場だ。
 なかでも「午後の紅茶」はシェア5割近くを誇り、「お昼にサンドイッチを買って紅茶を飲もうと思うとなんとなく『午後の紅茶』を買っている」(20代女性)というほど浸透している。
 これに対抗してサントリーの今村氏らは「既存の紅茶飲料のイメージとは違う軸で勝負する」と考えた。開発プロジェクトが掲げた目標は「紅茶を超える紅茶」。妥協せずに「本当に美味しい紅茶とは」を目指した結果、ユーザーからも「後味のスッキリ感がいい。紅茶のうまみが出ている」(20代女性)など納得した声が多数得られた。口コミの評判がモノを言う女性のリピート率が高いことも、消費者の潜在的なニーズをとらえたことを裏打ちしている。
 マーケティング面でも、本物の紅茶イメージを醸成するのに効果的な小型の紅茶缶のおまけを付けるキャンペーンを実施。個人のネット上でのブログでも頻繁に取り上げられるなど、ジワジワと知名度が上がっている。
 来年は紅茶が日本に上陸してから100周年。世界のお茶市場を見ると、紅茶8割、緑茶2割だが、逆に日本での消費量は緑茶が8割と圧倒的に差が開いている。
 紅茶には人の性格を「社交的」「ポジティブ」にする情緒的な効果もあるといわれ、海外では紅茶を飲むことは「余裕を楽しむ」といったライフスタイルの象徴ともされる。
 手軽さや便利さを追い求めてきたペットボトル飲料で本物志向が強まるなか、リプトンを筆頭にした紅茶飲料市場での新たな試みが注目される。

(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2005.5.10日経産業新聞より)

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フィリップス脱毛器「Flirt」
「すべすべ肌」低価格で実現訴え■香港発のデザインも魅力
 

 初夏の陽気に誘われ、肌の露出度の高い女性の姿が目立ってきた。6月は家庭用脱毛器や女性用電気シェーバーなどの無駄毛処理製品の売り上げがピークを迎える。今年は各社が新製品を相次ぎ投入し、数量・金額とも順調に売り上げを伸ばしている。
 日本は10―40歳代の女性の約95パーセントが何らかの手入れをしている世界一の「除毛国」。処理の開始時期は低年齢化が進み、早い人では小学校高学年から「お手入れ」を始めるという。カミソリ、除毛剤、脱色剤、脱毛ワックス、脱毛テープ、毛抜き――。無駄毛処理製品は実に様々だが、価格や効果などには一長一短がある。ここ数年、急速に技術改良が進んでいるのが家庭用脱毛器だ。
従来、脱毛器の価格は1万円前後が中心で、「高価」とのイメージが定着していた。松下電工のインターネット会員でも脱毛器の利用者は全体の18パーセント前後と、知名度の割には普及していなかった。そんな中、価格破壊をもたらしたのが、今年3月にフィリップスが発売した5000円以下の新製品「Flirt(フラート)」(ヨドバシカメラの市場参考価格は4980円 )だ。
特定分野に詳しい「ガイド」による口コミ発信源のサイト「All About」では、「脱毛初心者必見!お手ごろ価格で初トライ」と紹介されるなど、注目が集まっている。フィリップスでは「この商品を入り口に脱毛器の良さを知ってもらいたい」(家電事業部マーケティングマネージャーの松平景子氏)と狙いを語る。
「Flirt」は独自の高速回転ディスクを採用した「ピンセットシステム」で0.5ミリの短い毛でもすばやく抜き取るため、肌への負担が少なく仕上がりが綺麗なのが特長。脱毛ヘッドの面積を小さくして痛みを和らげる工夫も施した。コードの要らない電池式で、旅行など持ち運びに便利なのも受けている一因だ。
無駄毛処理で最も一般的なのはカミソリによるお手入れだろう。カミソリそのものは高くて1000円程度と安く、腕・ワキ・足を合わせた一回の処理時間も15分~30分と手軽だ。しかし、翌日には生えてくるため頻繁に処理しなくてはならないのが難点だった。
脱毛器の最大の魅力は効果が持続する点だ。一回の処理時間は40分程度かかるが、個人差こそあれ手入れは2週間に1回程度で済む。カミソリは皮膚が赤くなりヒリヒリすることがあるが、最近の脱毛器では皮膚のトラブルは少なくなった。
日本での脱毛器市場では松下電工の「Soie(ソイエ)」がシェアの8割を占め、フィリップスやブラウンなどの海外ブランドも根強いファンを持つ。売上規模では圧倒的に差を付けられているフィリップスだが、利用者の声は「フィリップスのブランドを信頼して買った。5000円以下でも十分に高性能」(20代女性)と評価も高い。デリケートな用途の製品だけに、ブランドへの信頼感も重要だ。
もうひとつの魅力はオレンジ・ホワイトを基調とした蝶のデザイン。アジア向けの限定バージョンだ。オランダに本社を置くフィリップスは全世界で事業展開しているが、香港オフィスがアジア地域のマーケティングを統括する。欧米人に比べて体が小さく、デザインにこだわる消費者の嗜好に合わせた商品開発を行った。製品開発におけるグローバル戦略の成功例とも言える。
日本人の女性には「すべすべ肌」へのあこがれが強い。松平氏は、カミソリでの処理に不満を持つ人など潜在需要は多いと見る。インターネットの普及で消費者が積極的に商品情報を集めるようになっており、市場の拡大は単なる機能競争を超えて、「商品への理解度を高める努力」にもかかっている。

(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2005.6.7日経産業新聞より)

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携帯電話サイト「えいご漬けモバイル」
「聴く」「見る」など3つの学習法■「携帯性」と「本格派」長所両立
 

 単語帳をめくりながらつぶやく受験生、教材本を片手にラジオ英会話を聞くビジネスマン――。こんな見慣れた英語学習の光景が大きく変わりそうだ。限られた時間で英語を身に付けたい人に最適というふれこみで、携帯電話の画面上で学べるソフトが登場した。プラト株式会社(東京・港、朝倉耕介社長)がNTTドコモの「iアプリ」に提供する携帯電話サイト「えいご漬けモバイル」だ。
 同社のパソコン用英語学習ソフト「えいご漬け」を携帯電話のアプリ向けに作り直した。5月半ばにFOMA限定でサービスを始めて以来、会員数は3000人弱。今月からドコモのムーバ500シリーズでも配信を始めた。
土台となった「えいご漬け」は2002年9月の発売から3年間で16万本売り上げた大ヒット作。パソコン用の英語学習ソフトは種類こそ多いが、大半は苦戦を強いられている。同社は家電量販店やソフト店をあえて避け、大手書店で売り出した。他の英語学習教材とあえて競合させて存在感を高める戦略だ。
 書店販売と並行してインターネット通販のアマゾン・ドット・コム経由の売り上げも拡大。発売後1年でファイナルファンタジーを追い抜き、その後約1年半にわたって首位を維持。アマゾン史上、最高の売り上げを記録した。
 「えいご漬け」の特徴は、英文を「聴く」「タイピングする」「見る」という3つの方法で学べる点にある。パソコンの機能をフルに活用して、学習者の「聴く」「書く」の作業を大幅に軽減。画面上で完成させた英文は、「主語」「動詞」など文の要素ごとに色分け表示されるので、視覚的に文法を理解することができる。
 「英語と日本語の違いは語順。それさえ体に染み込めば英語を征服できる」(プラトの朝倉社長)。開発段階では、既存の英単語学習本を徹底的に分析。基本的な単語と例文が過不足なく入った「データベース3000基本英単語・熟語」(桐原書店、単語数1434、センテンス数1702)を採用した。
 例えば和文英訳。列挙された単語から適当なものを順番に選び、かつ時制を選択する。英語の構造と語順が身につき、「開発途中のモニター調査でも学習効果が確実に上がることが報告された」という。
 携帯電話版「えいご漬けモバイル」はさらに進化させた。「語順トレ(トレーニング)」「文法トレ」では、毎日問題が更新される。解答時間がランキングで表示される「今日トレ」も盛り込んだ。
 「今日トレ」以外は会員制(月額315円)で、一度ダウンロードすれば、追加料金も通信料金もかからない。アクセスが不要なので、電車の中、病院の待合室、職場のお昼休みなど、時間と場所を問わず英語を学べる。
 「ゲーム感覚ではまった」(30代男性)、「いつでもどこでも手軽にできてストレスがない」など、英語が苦手な人でも取り組みやすい点が人気ののようだ。
 携帯は通信機器であると同時に娯楽、学習のツール(道具)。同社では「まさにトレーニングにぴったりのメディア。今後も携帯の特性を生かしたコンテンツを充実させたい」(朝倉社長)とアイデアを練っている。
 これまで英語学習教材で、「携帯性」と「本格派」を両立したものは少なかった。小型で持ち運びは便利なのに、内容はイマイチで続かない。こんな潜在的な不満は多かったはずだ。携帯の良さは、大抵の人がいつでも身に付けていることだろう。たとえ「暇つぶし」でも、日常的に英語に接することで、進歩が期待できるかもしれない。

(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2005.7.12日経産業新聞より)

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ナムコの写真ツール機「雪月花2」
「キレイな自分」残せる撮影技術■合成背景に学校テーマ増やす
 

 「プリクラ」と呼ばれる写真シールが一世を風靡(ふうび)した1995年から10年がたった。JAMMAなど業界3団体の公式資料によると、全国の女子高校生約200万人のうち70%以上が週1枚以上のプリクラを撮影しており、市場規模は600億円超に達するという。
 プリクラが一過性の流行を超え、女子高生の生活に根付いた理由は何か。一つは女子高生の仲間意識を刺激してユーザー層を広げる仕掛け作り。そして継続的な技術革新と楽しませるアイデアの成果といえる。
 「プリ帳(プリクラを貼った手帳)は宝物」という女子高生は多い。「友達と遊びに行くときは必ずプリ(プリクラ)をとる」という子も多く、プリクラ撮影は遊びの1シーンに不可欠なものとなっている。ナムコAMカンパニープロデューサーの長田隆一氏は、「彼女らは女子高生時代が3年間の『期間限定』だと強く感じている。プリ帳は『自分プロデュースの卒業アルバム』のようなもの」という。
 女子高生へのインタビューでは「初対面の子でもその子のプリ帳を見ればどんな子かわかる」といった話題が尽きない。大半が自分のプリ帳を持ち歩き、日記風にしたり表紙に落書きをほどこしたりして、自己流にアレンジしている。また「プリ帳で見て気に入って紹介してもらった人と付き合っている」という話もあり、単なる遊びを超えてコミュニケーションのツールとしての役割を果たしているといえそうだ。
 現在、写真シール機メーカーはナムコ、オムロン、セガ、メイクソフトウェア、アトラス、IMSの6社。大きな規模のゲームセンターでは10種類以上の写真シール機が並ぶが、中でも不動の人気を誇っているのは2003年から続くナムコの「美肌プロジェクト」シリーズ。思春期のにきびや肌荒れがあってもプロ仕様のストロボ光で、肌も髪もきれいに、つやつやに写る。
 シリーズ第4弾の「雪月花」(04年9月発売)はティーン誌「Popteen」上で「2004年ヒット商品ランキング」に写真シール機で唯一ランキングに入り、発売以来売り上げ首位(月刊アミューズメントジャーナル調べ)を維持している。
 ナムコの長田氏は「我々はサービス業。彼女らがプリクラに何を求めているのかマーケティングを繰り返した」という。04年に同社が対面調査した女子高生は約5000人。写真シール機の開発拠点を東京・渋谷近くに置き、生の声を聞きながら不満や悩み、願望を探り出した。そして発足したのが「美肌プロジェクト」だ。
 先月発売された「雪月花2」では、より多彩な撮影場面を演出するため、合成背景に「教室」「トイレ」「夜の理科室」など身近な学校テーマを大幅に増やした=写真。プリクラは撮影した後の画面に落書きを合成できるが、「ヘタ文字ペン」や「手書きスタンプ」も用意し、苦手な子でも簡単に流行の落書きができる。髪質や肌の明るさも自在に変えられるようになり、今まで以上に「キレイな自分」「楽しんでいる自分」を残せるようになった。
 資生堂のティーン向けシャンプー・リンス「ティセラ」の広告媒体としての利用など、新たなアイデアも豊富に盛り込んでおり、「人気は上々」(長田氏)という。
 ただ、少子化の影響からプリクラにも成熟化の影が近づいている。このため業界では、男性顧客が8割を占めていた「ゲーム市場」で女性のユーザー層を開拓する動きが出ている。ナムコでは数年前から女性の利用者を想定したゲーム「太鼓の達人」などの商品作りを推進し、「たまごっち」の大ブームを巻き起こしたバンダイも7月に「ガールズプロダクト企画室」を設置している。両社は9月に経営統合する予定。プリクラで培ったマーケティング力を生かし、新たな市場を創出しようとしている。

(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2005.8.2日経産業新聞より)

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キリンビール・森永製菓「ICEBOXカクテル」
カラフルさ 女性に人気■価格競争抜け出す試み
 

 席に着いたら「とりあえずビール」――。15年前ならこんな光景は当たり前だったが、いま、若者のアルコール飲料に対する嗜好(しこう)のトレンドに異変が起きている。昨年末、キリンビールが実施した「20歳代のお酒の飲み方」調査によると、女性の好きな酒類の1位は「カクテル」(31.6%)で、2位の「ビール」(18.8%)に大きく差をつけた。1998年と比べても20代の「ビール離れ」は顕著で、カクテルやチューハイなどへの「ライト化」が確実に進んでいる。
 居酒屋ではカクテルで他店との差異化を図ろうとする戦いが繰り広げられている。「白木屋」や「笑笑」など全国で1200店を展開するモンテローザグループが提供する「ICEBOXカクテル」もそのひとつだ。
 「ICEBOXカクテル」は普通の氷の代わりに、かち割り氷の形状をした氷菓「ICEBOX」を使ったカクテル=写真。キリンビールと森永製菓のコラボレート商品だ。甘酸っぱい味とパステル調の色がついた「ICEBOX」を氷代わりに使うため、カラフルでおしゃれな感じを楽しめるだけでなく、氷が解けても味が薄くなることがないのが魅力の一つだ。
 価格は「ICE BOX マスカット&杏露酒」で441円(白木屋)。通常のカクテル(370~400円程度)に比べてやや高めだが、「氷を食べながら飲めるデザートのようなカクテル」(22歳大学生)として女性に大人気のメニューとなった。
 カクテルはチェーン店にとって利益率が高い重要な商品だ。「ICEBOXカクテル」は、「顧客を飽きさせないメニュー」「来客数を増やすのに欠かせない女性向け商品」を両立させる絶好の商材となった。キリンと森永製菓は市場拡大を目指して、カクテル用に開発したICEBOX4種類とカクテル6種、割り材3種類を掛け合わせ、見た目と味の嗜好を徹底的に調査。今年から取扱店をカラオケボックスへ広げた。
 今年1月からの大手チェーン店での試験導入では、来店者に未成年者が多い点を勘案し、ICEBOXを使ったノンアルコールカクテルも提供。飲料の全194点中、生ビール、アイスウーロン茶を抜いて、売上高1位を達成した。居酒屋、カラオケに加え「イタリアントマトCAFE Jr.」や「麺飯食堂 アジワン」などのレストラン、ホテルにも手を広げ、取扱店舗は昨年の倍近い約3000店舗に伸びている。
 このカクテルが誕生したきっかけは、森永製菓からキリンに「協力して何か作れないか」と持ちかけたことだった。量販店に対しては森永が、業務用に関してはキリンが営業の主導権を握り、分担して市場を開拓している。一般消費者向け、業務用とも、食品・飲料業界は「価格競争に巻き込まれないための企画提案力」が試されている。特に酒類業界は「何かと制約が多い中、『ICEBOX』を活用することで、店舗への大胆な提案ができるようになった」(キリンビール広域販売促進第1部の三宅清三郎氏)。
 互いの強みを生かした営業戦略は始まったばかりだ。コンビニエンスストアやスーパーなどの量販店では、キリンチューハイ「氷結シリーズ」と、「ICEBOX」によるカクテルを提案する売り場作りを展開。セット購入で割り引きするキャンペーンも行っている。
 店頭での売れ筋商品がめまぐるしく変わり、消費者の好みも多様化している。メーカーは際限のない新製品競争の渦の中から頭一つ浮上しようと競い合う。「女性誌+アパレル」「玩具+アニメキャラクター」など異業種間のコラボ商品は増えているが、森永とキリンによる「非価格営業」は、飽和市場を抜け出す解の一つかもしれない。

(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2005.8.23日経産業新聞より)

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リコムの健康食品「キノコキトサン」
アレルギー反応の心配少なく■ダイエット市場に布石
 

 人間ドッグ受診者の「異常なし」は過去最低――昨年、日本はこんな不名誉な記録を更新した。ガン・糖尿病・高脂血症など生活習慣病の増加が大きな社会問題となるなか、機能性食品や健康食品への関心はいやが応にも高まっている。特定保健用食品(特保)市場は2003年度で推定約5600億円と、6年間で4倍以上に拡大した。
 機能性食品で人気の筆頭は、体脂肪やコレステロール抑制に効果があるものだ。30―60歳代男性の3割以上が肥満という厚生労働省の調査もあり、ダイエットは潜在需要が大きい分野といえそうだ。
 ダイエット効果のある健康食品として「キトサン」を利用したものも注目されている。肥満は摂取カロリーが消費カロリーを上回ることで起きる。キトサンは食品の中で最もカロリーの高い脂質を吸着。腸管からの吸収を抑制することで体脂肪の蓄積を防ぐ。現在流通しているキトサンの多くはカニやエビなど甲殻類由来で、アレルギーの原因となったり、海外からの輸入品で粗悪品が多かったりと、問題があった。
食品開発会社のリコム(東京・豊島、浜屋忠生社長)は食用キノコを原料として「キノコキトサン」を開発した。エノキダケやシイタケ、マイタケ、アガリスクダケなどを使うため安全性が高く、アレルギー反応の心配も少ないという。
 リコムは10―60代の男女計75名で実験した。肥満度の判定方法であるBMIは、体重(キログラム)÷身長(㍍)2で算出し、肥満は25以上、適正は18.5―25未満と考えられている。このBMIが18・5以上のすべての人に2ヶ月間、服用してもらったところ、体重、体脂肪量で減少が認められた。人間の体脂肪1キログラムを消費する運動量はフルマラソン3回分といわれるが、キノコキトサンでは「食事制限や激しい運動を必要とせず、適正カロリーを摂取して体脂肪を落とせる」(同社)という。
 同社は元来、マッシュルームを原料とした消臭効果のあるシャンピニオンエキスを販売していたが、キノコキトサンは途中の工程で分解してしまい抽出・精製が困難とされていた。しかし、03年に精製技術を確立して国際特許を出願。今では製造専用原料として供給する一方、一般の配合製品として健康食品や、チョコレート、クッキーなどのお菓子に含まれる形で20品目以上が市場に出ている。リコム自体も関連会社から「キノコキトサンDietビアフ」(定価7800円)=写真=を今月リニューアル販売する。
 消費者の期待度が高い半面、明確な効果測定の物差しがなかったり、誇大広告が多かったりと、健康食品の業界には「玉石混交」のイメージがつきまとう。それだけに厚生労働省もここ2年ほど規制強化と規制緩和を同時に進め、健全化を図っている。
 昨年の専門家による検討会では、科学的根拠がある成分を含む食品については、特保審査を迅速にするなど許可を取りやすくする一方、ダイエット食品などの表示規制を厳格にするよう提言がまとめられた。
 しかし特保の許可を受けるには、商品ごとに臨床試験などを通じて効果を実証する必要があった。多額の開発費と長期間がかかり、事実上、特保の許可を取得しているのは大企業が中心だった。リコムは鳥取大学、日本大学との共同研究や、大手メーカーとの販売連携を通じて、既に8品目の特定保健用食品の許可を取得している。
 05年上半期は豆乳入りアイスやGABA(血圧降下作用のあるアミノ酸の一種)、ホッピーなど健康志向商品がヒット商品の上位に名を連ね、ダイエット熱は高まっている。リコムが「キノコキトサン」を商材に新たな事業展開を考えているように、開発力のある中小企業も、アプローチ次第では老若男女を対象にした幅広い「ダイエット市場」に布石を打つことができそうだ。

(ブームプランニング社長 中村泰子)

(2005.9.13日経産業新聞より)

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